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東京高等裁判所 昭和60年(ネ)1649号 判決 1986年1月30日

控訴人 村田稔

右訴訟代理人弁護士 金子和義

同 氏家茂雄

被控訴人 新営産業株式会社

右代表者代表取締役 岩船昱義

右訴訟代理人弁護士 山本忠義

同 木村政綱

同 藤川元

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「1 原判決を取消す。2 被控訴人の請求を棄却する。3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、その記載を引用する。

1(一)  原判決二枚目裏一行目「一〇月二九日、」の次に「売主をヨモ七商事、買主を三和水産とし、」を加え、末行「商品」を「代金合計三七四万六三九〇円相当の水産物」と改める。

(二)  同三枚目表八行目「本件取引」から一〇行目「知らない。」までを「本件取引契約における売主の地位の譲渡がされたこと、控訴人が右売主の地位の譲渡を承諾したことは否認する。その余の点は知らない。控訴人がヨモ七商事から右地位の譲渡について通知を受けたことはない。」と改める。

(三)  同三枚目六行目「昭和五六年」から末行「無効である。」までを次のとおり改める。「仮に被控訴人の主張するように売主の地位の譲渡があったとしても、ヨモ七商事及び被控訴人の双方において右売主の地位の譲渡を承認する取締役会の決議が存在しないから、右売主の地位の譲渡は商法二六五条に違反し無効である。

仮に右取締役会の決議が存在したとしても、ヨモ七商事及び被控訴人は、昭和五六年三月一五日本件取引契約の売主たる地位の譲渡を承認する取締役会においてそれぞれ斎藤和代及び斎藤達一に議決権を行使させたところ、斎藤和代はヨモ七商事に関し、また、斎藤達一は被控訴人に関してそれぞれ特別利害関係人であり議決権を有しない(昭和五六年法律第七四号による改正前の商法二六〇条ノ二第二項、二三九条五項)から、その決議は無効である。」

(四)  同四枚目表七、八行目「これら事情に照らすと」を「その他保証人である控訴人と主債務者である三和水産との関係、控訴人が保証の委託を受けた状況等一切の事情を斟酌すれば、本件保証が無期限、無限度額の根保証である以上、信義則又身元保証ニ関スル法律の類推適用により」と改める。

2  控訴人の主張

(一)  原判決は、控訴人が本件取引契約に基づく三和水産の債務についてした連帯保証契約の効力は本件取引契約の更新後の取引による債務についても及ぶ旨認定しているが、右認定は事実を誤認したものである。

控訴人は、昭和五五年一〇月ごろ三和水産の小嶋専務取締役からヨモ七商事との取引月額が一〇〇万円以下であり、取引条件は翌月払いで、保証期間は一年間であるといって保証を懇請されて応じたもので、更新後の本件取引契約に基づく債務について保証する意思はなかった。ヨモ七商事と三和水産との間の商品取引契約書(甲第四号証)によれば、契約の有効期間は一年間とされ、その七条には「甲(三和水産を指す。)の連帯保証人はこの契約及びこの契約に基く……一切の債務について甲と連帯して保証の責を負うものとする。」と定められている。よって、控訴人は更新前の本件取引契約についてのみ連帯保証の責を負うものと解すべきである。甲第一三号証の二によれば、控訴人は昭和五七年九月一八日の時点において保証契約が存在するものと誤信していたようであるが、保証契約は当時すでに期間満了により存在しなかったのであり、追認の余地はなかった。

(二)  原判決は、被控訴人が昭和五六年四月一日ヨモ七商事から本件取引契約の売主たる地位の譲渡を受け、右地位の譲渡について控訴人及び三和水産の承諾を得た旨認定しているが、右認定は事実を誤認したものである。

株式会社ヨモ七が昭和五四年七月二五日付で取引先の小銭寿し本部宛に送付した書面(乙第二号証)によれば、株式会社ヨモ七は、昭和五四年八月一日営業分担機構を改革し、各種冷凍魚類の販売窓口を株式会社ヨモ七からその系列販売会社であるヨモ七商事に変更した旨の記載があるが、同年七月末日以前の取引についての地位の承継についてなんら触れられていない。したがって、昭和五六年四月一日の本件機構改革においても、本件取引契約の売主たる地位がヨモ七商事から被控訴人に譲渡されたものではないと認めるのが相当である。

また、商法二八条について、営業譲渡に伴い債務引受がされたと認定しうるためには業務を承継する旨の通知がされただけでは足りない旨の最高裁判所昭和三六年一〇月一三日第二小法廷判決(民集一五巻九号二三二〇頁)があり、右判決の趣旨からすれば、乙第二号証のような内容の通知がされただけでは、売主の地位の譲渡通知があったものと認定することはできない。

更に、本件機構改革についての通知は、ヨモ七商事がせず、株式会社ヨモ七がしているところ、債権譲渡を内容とする売主の地位の譲渡通知は譲渡人であるヨモ七商事に限ってこれをすることができるから、株式会社ヨモ七のした右通知は不適法である。

(三)  原判決は、ヨモ七商事及び被控訴人の各取締役会において本件取引契約の売主の地位の譲渡を承認する決議があったことを前提とし、右各取締役会において売主の地位の譲渡の決議をするに当り、それぞれ特別利害関係人である斎藤和代及び斎藤達一が議決権を行使したが、右特別利害関係人を除いても決議の成立に必要な多数が存したので、右決議は有効である旨認定しているが、右認定は誤りである。

第一に、売主の地位の譲渡に関する取締役会の決議は存在しなかった。ヨモ七商事の関連会社の業務変更の手続は、すべてヨモ七商事の代表取締役が単独で決定していたのであり、本件取引契約の売主たる地位の譲渡についてのヨモ七商事及び被控訴人の取締役会の議事録は、いずれも裁判のために後日作成されたものである。

第二に、取締役会における特別利害関係人の議決権行使は、重大な瑕疵であり、決議の結果への影響如何に拘らず、決議を無効ならしめるものと解すべきである。

(四)  原判決は、控訴人が抗弁として控訴人の本件取引契約に基づく債務についての保証が一〇〇万円の限度に制限されるべきである旨主張したのに対し、本件取引契約による取引額が月平均二〇〇万円を超えていたこと、控訴人が三和水産の取締役であり報酬の支払を受け、三和水産から報告を受けて同会社と被控訴人との取引状況や三和水産の資産状況についてある程度の情報を得ていたものと推認しうるとして、控訴人の右抗弁を全面的に排斥しているが、右認定は事実を誤認し、かつ、信義則又は身元保証ニ関スル法律の趣旨に反しており、違法である。

先ず、取引額についていえば、本件取引契約による月間取引額は、取引当初の三か月間は一〇〇万円、取引開始から一年間は一二〇万円であり、昭和五七年度にはいって平均二〇〇万円であった。

次に、報酬支払の点をみると、控訴人は、三和水産から報酬を受領したことはなく、ただ、同会社の設立に際し同会社に一三〇〇万円に相当する貸付、預金担保の提供をしたため、その後約一年間利息として毎月一五万円ずつを受領したにすぎない。

更に、控訴人が三和水産の情報を得ていたかどうかの点であるが、控訴人は三和水産から被控訴人との取引状況について報告を受けたことはなく、現に、控訴人は三和水産の倒産の四、五日前に同会社のため三〇〇万円もの預金担保の増額に応じた。被控訴人は、本件取引契約の決済条件に反して昭和五七年七月分以降の代金の決済について三和水産から手形の交付を受けていたのに、控訴人に対し三和水産の信用の悪化についてなんら通知をしなかった。

控訴人は、三和水産から本件連帯保証契約の締結の委託を受けた際、再三にわたりこれを拒否したが、前述のとおり三和水産の小嶋専務取締役から本件取引契約に基づく月間取引額が一〇〇万円以下、代金の支払方法が翌月払、保証期間が一年間であるとして、保証を委託されたので、これに応じたのである。

以上の事情を斟酌すれば、本件連帯保証契約における控訴人の保証の限度は一〇〇万円に制限するのが相当である。

3  被控訴人の主張

(一)  前記控訴人の主張(一)ないし(四)は争う。

(二)  商品取引契約書六条により、本件取引契約及び本件連帯保証契約は期間満了の際に更新され、更に一年間存続することとなったのである。

(三)  ヨモ七商事及び被控訴人の取締役会において本件取引契約の売主たる地位の譲渡を承認する決議がされたことは、証拠上明らかである。

商法二六五条の取締役会の決議の有効、無効は、会社の業務執行の内部的問題であり、同条の趣旨は、会社ないし株主の利益を保護するにあたり、取引の相手方が自己の債務を免れるために右決議の瑕疵を主張することは許されない。

(四)  ヨモ七商事は、昭和五六年四月控訴人に対し本件取引契約の売主たる地位を被控訴人に譲渡する旨の通知をし、控訴人は右地位の譲渡を承諾した。控訴人引用の最高裁判所判決は、本件と事案を異にする。

(五)  原判決が控訴人の本件保証債務の範囲を制限しなかったことについて裁量を逸脱した違法はない。

理由

一  当裁判所は、被控訴人の本訴請求を正当として認容すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の理由と同一であるから、その記載を引用する。

1  原判決六枚目表一行目「右認定」から六行目「拠はない。」までを「原審における控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲各証拠に対比してにわかに信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、本件取引契約の契約書には、当初から、期間満了の一か月前までに当事者の一方からの申出がないときは本件取引契約は更に一年間存続する旨の条項が明記されていて、これに基づいて本件取引契約が更新されたのであり、控訴人は右当初から明記されていた更新条項を知りつつ買主である三和水産の一切の債務について連帯保証をしたのであるから、更新後の本件取引契約に基づく三和水産の債務についても、連帯保証人としての責任を負うものというべきである。」と改める。

2  同六枚目裏五、六行目「主宰する」を「主宰し、ヨモ七グループと称する」と改め、一〇行目、末行の各「三和商事」をいずれも「三和水産」と改める。

3  同七枚目裏五行目「認められる。」の次に行を換えて、次のとおり加える。

「《証拠省略》を総合すれば、ヨモ七商事は、昭和五六年四月一日の本件機構改革について、控訴人、三和水産等の取引先に対しそのころ書面をもってヨモ七グループの会社の営業分担機構を改革し、冷凍魚の販売部門をヨモ七商事から被控訴人に譲渡した旨の通知をしたことが認められる。右通知は、ヨモ七商事が被控訴人に対し本件取引契約における売主の地位を譲渡した点について直接明示的に言及していないが、その趣旨であることは容易に理解しうるのみならず、前記認定のとおり三和水産及び控訴人は昭和五六年四月被控訴人に対し右売主の地位の譲渡について承諾したのであるから、被控訴人は三和水産及び控訴人に対し被控訴人が本件取引契約における売主の地位を譲受けたことを主張しうるものといわなければならない。」

4  同七枚目裏六行目「ところで」から同八枚目表三行目「主張するが、」までを次のとおり改める。

「控訴人は、ヨモ七商事及び被控訴人の各取締役会において本件取引契約の売主たる地位の譲渡を承認する決議は存在しない旨主張するが、《証拠省略》を総合すれば、昭和五六年三月一五日ヨモ七商事及び被控訴人の各取締役会において、いずれも同年四月一日以降の本件取引契約の売主たる地位をヨモ七商事から被控訴人に譲渡することを承認する決議をしたことが認められる。

また、控訴人は、仮に右各取締役会の決議が存在したとしても、ヨモ七商事の取締役斎藤和代は被控訴人の代表取締役であり、被控訴人の取締役斎藤達一はヨモ七商事の代表取締役であるところ、昭和五六年三月一五日のヨモ七商事及び被控訴人の右各取締役会の決議において、それぞれ特別利害関係人である斎藤和代及び斎藤達一に議決権を行使させたから、右各決議は無効である旨主張する。

《証拠省略》を総合すれば、ヨモ七商事の取締役は、斎藤達一(代表取締役)、斎藤和代、斎藤とみの三名であるところ、昭和五六年三月一五日午後一時に開催された同会社の取締役会において、右三名の取締役が出席し、ヨモ七グループに属する関連会社の機構改革に伴い、昭和五六年四月一日より冷凍魚の販売部門をヨモ七商事から被控訴人に譲渡すること(本件売主の地位の譲渡を含む趣旨と解される。)を全員一致で可決したこと、また、被控訴人の取締役は斎藤和代(代表取締役)、斎藤達一、栗原健夫の三名であるところ、昭和五六年三月一五日午後三時に開催された同会社の取締役会において、右三名の取締役が出席し、ヨモ七グループに属する関連会社の機構改革に伴い、昭和五六年四月一日より冷凍魚の販売部分をヨモ七商事から被控訴人が譲受けること(本件売主の地位の譲受を含む趣旨と解される。)を全員一致で可決したこと、本件売主の地位の譲渡は継続的取引契約における売主の地位の譲渡であり、単なる債権譲渡ではなく、権利義務を伴う包括的な地位の譲渡であって、右譲渡はヨモ七商事及び被控訴人双方の利益に合致し、双方においてなんら異議を述べる理由のないものであったこと、本件取引は、本件売主の地位の譲渡後、昭和五七年七月一日から同年八月二日までの間に被控訴人と三和水産との間で行われたものであること、三和水産及び控訴人は本件売主の地位の譲渡によって被控訴人から冷凍魚を買うことになっても別段不利益を受けることはなく、さればこそ三和水産代表取締役長野重忠も、控訴人も被控訴人の営業担当者である飯島要一郎に対し本件売主の地位の譲渡を承諾し、三和水産は本件取引契約に基いて被控訴人から冷凍魚類の購入を続けてきたことが認められ(る。)《証拠判断省略》

右事実によれば、控訴人は、信義則上、右売主の地位の譲渡に関するヨモ七商事及び被控訴人の各取締役会における決議が昭和五六年法律七四号による改正前の商法二六〇条ノ二第二項、二六五条に違反することを理由として譲受人である控訴人の本訴請求を拒絶することはできないものと解すべきである。」

5  同八枚目裏一行目「そして」から二行目「一ないし八」までを「前掲甲第一一号証の一ないし八、原審証人飯島要一郎の証言」と改め、末行「事情に照らし」を「事情を斟酌し、信義則又は身元保証ニ関スル法律の類推適用により」を改める。

6  同九枚目表五行目「によれば、」の次に「控訴人は、昭和四七年二月一四日三和水産が設立された際、同会社の取締役に就任し、それ以来その地位にあり、同会社の要請により信用のない同会社がヨモ七商事と取引することができるようにするため昭和五五年一〇月二九日ヨモ七商事との間で本件連帯保証契約を締結したこと、」を加え、七行目「取締役であり、」を「取締役として」と改め、《証拠訂正省略》と改める。

7  同九枚目裏三行目「右認定事実」から四行目「認められない。」までを次のとおり改める。「以上の事実によれば、被控訴人は三和水産の取締役であるが、同会社の要請により信用のない同会社がヨモ七商事と取引することができるようにするためヨモ七商事との間で本件連帯保証契約を締結したものであるところ、右連帯保証契約には保証の限度について特約がなかったのであり、控訴人は、右連帯保証に基づく債務額が数百万円に達することは容易に予見しえたものと認められるのであって、控訴人の主張するような理由により保証の限度を一〇〇万円に制限すべきものとは認められない。」

二  よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川添萬夫 裁判官 佐藤榮一 石井宏治)

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